金融・保険業界の生成AI活用事例6選!生成AIのメリット・注意点も解説

金融・保険 活用事例

株式会社C And 代表取締役

監修 木俣太地

近年、生成AIの登場により、さまざまな業界で革新が進んでいます。特に金融・保険業界では、業務効率化や自動化、顧客サービスの向上など、多岐にわたって生成AIが注目されています。

本記事では、金融業界での具体的な活用事例導入時のメリットや注意点導入手順などを分かりやすく解説します。

生成AIとは

生成AI(Generative AI)とは、テキスト、画像、音声、動画などのデジタルコンテンツを自動で生成する技術のことです。従来のAIはデータの分類や予測を主な目的としていましたが、生成AIは大量のデータから学習し、「新しいものを作る」ことに特化しています。

生成AIが注目される理由には、その柔軟性創造力が挙げられます。生成AIはデータをもとに柔軟に新しいアイデアや表現を生み出すことが可能です。

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金融業界の生成AIビジネス活用事例6選

実際に金融業界の企業がどのように生成AIを活用しているか事例を見ていきましょう。

生成AIアシスタント「Wiz Chat」【みずほ】

みずほは、2023年6月にAzure OpenAI Serviceを活用した〈みずほ〉版の生成AIアシスタント「Wiz Chat」を導入しました。

初心者でも使いやすいように、「ブレストさせて!」「文章を添削・校正して!」など、業務で活用できる12種類のプロンプトテンプレートが用意されています。人を頼る前の壁打ち相手として活用してもらうといった狙いもあるようです。

参照:みずほFG「AI活用で切り拓く未来の金融サービス。〈みずほ〉が描くイノベーションへの道のりとは?」「金融の未来が変わる?黒島結菜が〈みずほ〉の生成AI活用の現場を訪問

対話形式の代理店アシスト機能【楽天生命】

楽天生命は、自然な文章や会話が生成できる特性を活かした対話形式のサポートツール「ChatGPT API」を活用しています。

24時間365日、営業活動時の留意点や話題提供など行い、代理店の課題解決営業活動の促進を図っています。

また、楽天生命は、OpenAIの機能を利用した対話型のAIチャットボットを顧客向けにリリースしています。楽天生命ホームページに掲載された情報と連携しており、対話型のAIチャットボットが顧客の問い合わせに対応するといったサービスです。

参照:楽天生命「楽天生命、生成AIを活用して対話形式の代理店アシスト機能を実現

顧客向け投資AIアシスタント【楽天証券】

楽天証券の「投資AIアシスタント」は、生成AI「ChatGPT」を活用したチャット形式のサービスです。

投資の基礎知識や「トウシル」の記事紹介など、楽天証券のウェブサイトに基づいた情報を提供します。図や動画を交えた分かりやすい回答が可能で、初心者から上級者まで幅広いニーズに対応します。

24時間利用でき、自然な対話で投資の疑問を解消するサポートを提供してます。

参照:楽天証券「顧客向け投資AIアシスタント

顧客の応対メモの自動作成 【明治安田生命】

出典:日経FinTech

明治安田生命は、株式会社ELYZAと連携し、日本語に特化した生成AIに過去の応対メモを学習させ、通話のテキストデータから応対メモを自動作成するシステムを開発しました。

これにより、通話終了後に照会内容を要約した応対メモ作成業務にかかる時間を約30%削減できる見込みです。また、作成者によって微妙に異なる表現が統一化され、わかりやすさが向上することも期待できます。 

参照:明治安田「生成AIを活用した社内業務の効率化・高度化の取組開始について

広告審査に生成AIを活用【野村HD】

野村HDは、広告物が金融商品取引法や日本証券業協会のガイドライン、自社規定に適合しているかを確認するため、2023年5月より生成AIを導入しました。

損失補填や他社批判、自社の過剰評価などの不適切表現や文法の誤りを生成AIがチェックし、違反箇所を指摘します。最終的な審査判断は人間が行いますが、月数百件に及ぶ広告物の確認作業を効率化し、負担軽減や迅速化を実現しています。

参照:日経経済新聞「野村、広告審査に生成AI

書類作成の自動化【第一生命】

第一生命保険は、株式会社エクサウィザーズが提供するexaBase Studioを活用し、ChatGPT等の生成AIの安全かつ効率的な活用を目的とした AI 活用プラットフォーム構築に着手しています。

exaBase Studioは、利用ログ・入出力データの記録や※ハルシネーションチェック等がテンプレートとして提供されている安全性に長けたシステムとなっています。

ローコードの開発・運用環境の活用により、約50%の開発生産性向上の見込みと第一生命は述べています。さらに、レポートの自動生成や社員が行政など外部に提出するドキュメントのひな型生成といった活用も進めていくようです。

※AIが存在しない情報をあたかも真実であるかのように生成してしまう現象を「ハルシネーション(もっともらしい誤り)」と言います。

参照:第一生命「exaBase Studio」の導入

金融・保険業界の生成AI活用シーン4選

ここでは、具体的な金融・保険業界の生成AI活用シーンの例を4つご紹介します。

稟議書や契約書の作成

金融機関では、稟議書や契約書の作成が日常的に発生し、これらの業務は多くの時間と労力が必要です。生成AIを活用すれば、書類作成にかかる手間を大幅に削減できます。

生成AIを活用すると、必要な情報を入力するだけで、自動的にテンプレートに従った書類が作成されます。これにより、担当者は書類作成にかかる時間を削減し、確認や交渉といった重要な業務に集中できるようになります。

また、生成AIが作成する書類はフォーマットや文言が統一されているため、ミスが減り、品質の向上にもつながります。

カスタマーサポートの自動化

顧客対応は、金融・保険業界において重要な業務の一つです。しかし、問い合わせ対応に多くのリソースを要することが課題となっており、生成AIを活用したチャットボットFAQシステムの導入による工数削減が期待されています。

生成AIを活用すれば、顧客からの問い合わせに対して迅速かつ的確な回答を自動で提供できます。

例えば、24時間体制で稼働するチャットボットを導入することで、顧客満足度を向上させることが可能です。また、多言語対応ができる生成AIを活用することで、海外顧客への対応もスムーズになります。

広告作成業務

金融商品やサービスの広告作成は、マーケティング部門における重要な業務です。しかし、ターゲットに刺さる広告コピーやデザイン案を作るには、時間とリソースが必要です。生成AIを導入すれば、このプロセスが劇的に効率化します。

生成AIは短時間で複数の広告コピーを作成することができ、ターゲットに最適化された内容を提案します。また、顧客データを入力し、それを基にしたパーソナライズド広告を生成することで、広告効果を最大化することが可能です。さらに、画像生成AIと組み合わせることで、バナーやビジュアルコンテンツの作成までできます。

商品の提案

金融・保険業界では、顧客のニーズを的確に把握し、適切な商品を提案することが重要です。生成AIは、膨大な顧客データを解析することで、最適な提案をサポートします。

例えば、顧客の取引履歴やプロフィールを分析し、それに基づいて個別化された商品提案を行うことが可能です。さらに、リアルタイムで生成AIが提案内容を提供することで、営業担当者が迅速に対応できるようになります。

金融・保険業界で生成AIを活用するメリット

金融・保険業界で生成AIを活用するメリットは大きく2つあります。

業務効率化

生成AIをビジネス活用する最大のメリットは業務効率化と言えます。業務の一部が生成AIによって代替されることで、コストカットや全体の生産性向上が見込めます。

  • ドキュメント処理・作成の自動化
  • 広告業務の自動化
  • カスタマーサポートの効率化

など活用場面は様々です。

ボストンコンサルティンググループは、「金融・保険業界で生成AIを活用することで、業務により幅はあるが、最大6〜7割のリソースは削減できる」と述べています。

顧客満足度の向上

生成AIは、顧客データを深く分析し、個別のニーズに最適化された情報やサービスを迅速に提供することが可能です。

例えば、

  • 生成AIチャットボットによる24時間の柔軟な問い合わせ対応
  • 顧客データから個人に適した金融商品を提案

といったような活用の仕方が挙げられます。

このように、生成AIを活用したパーソナライズドかつ迅速なサービスは、顧客満足度を大幅に向上させると考えられます。

金融業界で生成AIを活用する際の注意点

生成AIの導入は、業務効率化やサービス向上に大きく貢献しますが、いくつか注意が必要です。ここでは、金融業界で生成AIを活用する際に特に注意すべき3つのポイントを詳しく解説します。

生成内容の正確性とチェック体制

生成AIは、必ずしも高品質なアウトプットを安定して出力するわけではなく、意図しない結果が含まれることがあります。そのため、AIが生成したコンテンツは、必ず人間がチェックし修正する必要があるのです。

AIが存在しない情報をあたかも真実であるかのように生成してしまう現象を「ハルシネーション(もっともらしい誤り)」と言います。

例えば、実在する企業の前年度の売上をChatGPTに聞いてみると、事実と異なる回答を出力するケースがあり、その他にもかけ算の問いに間違った数字を回答するといったケースもあります。

契約書や金融商品の説明資料など、正確性が特に求められる文書に生成AIを活用する際には、専門家によるダブルチェックを行うことでリスクを回避しましょう。また、生成AIの利用目的を補助的な役割に限定し、最終的な決定や承認は人間が行う体制を構築することが重要です。

セキュリティリスク

金融業界では、顧客の個人情報や取引データなど、高度な機密性を持つデータを日常的に取り扱います。生成AIを導入する際には、これらのデータを安全に管理するための対策が不可欠です。データの取り扱いが不適切だと、顧客の信頼を損ねるだけでなく、法的リスクにもつながる可能性があります。

生成AIを活用する際には、データの匿名化や暗号化を施すほか、データの保存先が安全であることを確認する必要があります。特にクラウドサービスを利用する場合、サービス提供元のセキュリティ対策プライバシーポリシーを事前に精査することが重要です。

法令遵守と規制対応

金融業界では、各国の法令や規制を遵守することが求められます。生成AIが生成するコンテンツやデータがこれらの規制に違反しないよう、活用の仕方には十分な配慮が必要です。特に、広告や顧客対応に関わる生成物については、法令に適合しているかを事前に確認するプロセスを設ける必要があります。

例えば、広告作成業務に生成AIを活用する場合、金融庁などの規制機関が定める基準に従った内容であることを確認するための監査プロセスを導入します。

また、顧客への説明資料や提案書に生成AIを活用する場合は、不正確な情報が含まれないよう注意を払うことが必要です。

生成AIのビジネス活用における4つの手順を解説

このセクションでは、生成AIをビジネス活用する具体的な4つの手順について解説していきます。

1. 生成AIを活用することで解決したい課題と活用目的の策定

まずやるべきは業務の棚卸し・その中で生成AIを活用することで何をどのような状態にしたいか決めることです。ここができていないと生成 AIを使うことが目的になってしまい、本質的な解決にならないことがよくあります。

せっかく予算も期間もかけて開発したのに、全く使えないという状況が起きないようにしましょう。

2.課題解決のためのソリューション考案と選定

課題解決のため生成AIで解決するべき課題と活用目的が定まったら、それらを解決するソリューションを考案しましょう。
アプローチの仕方は大きく3通りです。それぞれにメリットとデメリットがあるので、慎重に実行していきましょう。

それぞれリスクはありますが、生成AIの活用がもたらす恩恵は大きいためしっかり手順を組みながら実行することで効果的な活用が見込めます。

活用パターン社内の生成AIツール活用化生成AI活用システム開発(社内用)生成AI活用システム開発(社外用)
ソリューション例ChatGPTのプロンプト研修を行い特定業務の効率化社内ドキュメントを学習させた社内ナレッジ共有AIチャットボット開発顧客対応AIチャットボットの開発
メリット特に開発がないので、比較的導入がスムーズ教育コスト・コミュニケーションコスト削減顧客対応への時間が削減
24時間対応可能
デメリット誤った使用で情報流出の可能性開発工数開発工数とハルシネーション(誤った情報が出力)発生時のリスクあり
導入ハードル

3.テスト開発・試験運用/検証(PoC)

ソリューションの選定を終えたら、実際に実施していきます。

ここでは、まずPoC(概念検証)をするためのロードマップを設計します。具体的には、KPIの設定だったり、どんな効果を期待・測定するかを設定していきます。それを終えたら、要件定義をしていきテスト運用・開発を行います。

ここでのポイントはきちんと検証可能にすることです。そうでないと、この活用はよかったのかどうかが分からず、改善や本開発に進めないからです。

4.本開発・運用/検証

PoCが十分に行えて、検証結果が明らかになり、これは自社にとってプラスの効果をもたらすと判断できたら、これまでのデータなどを元に、自社にとっての経営インパクトがきちんと出るように要件定義を行い実施・本開発を行います。

実施したらこれで終わりということではなく、運用しながら検証していき、改善を継続する必要があります。

まとめ

生成AIは、金融・保険業界で様々な活用の可能性を秘めています。

業務効率化や顧客サービスの向上に寄与する一方で、法令順守や品質管理などの課題も存在します。具体的な事例や導入手順を参考に、自社に最適な生成AI活用の方法を模索してみてはいかがでしょうか。

株式会社C And 代表取締役 / 企業の業務課題をきちんと解決できるChatGPT・生成AI活用の研修/コンサルティングのプロ。
また、前職の株式会社MIXIで培ったブランドプロモーションスキルを活かし、話題化戦略を意識した制作した生成AI活用のアニメCMは、Xにて680万インプレッションを記録。幅広い形で生成AIを活用して、企業の課題解決に貢献。